メンタルヘルス対策のゴールは、厚生労働省の指示に従って「4つのケア」を実行することではなく、社員全員が健康で業務に集中できていることです。
メンタルヘルス対策をする目的は、一言でいえば、社員全員が健康で業務に集中でき、業績をアップさせるためです。

メンタルの不調で遅刻や欠勤が続くと、その社員が生み出す利益が失われるだけでなく、サポートするための周囲の社員の負担も大きくなります。その結果、組織全体が疲弊して生産性が落ちます。

同僚や上司に精神疾患への理解が不足していると、あいつのメンタルが弱いせいで俺たちの残業が増えた、と職場内の人間関係も壊れてしまいます。そうなると、全体のモチベーションが下がり業績も悪化します。

また、うつ病で退職した社員が、在職中にパワハラを受けていた、長時間労働させられていた、と弁護士を連れて戻ってくる、というのも当たり前になっています。うつ病の原因の2トップがパワハラ&長時間労働というのが裁判実務の常識となっているからです。

裁判になれば対応も長引き、費用も掛かり、SNSなどで情報は拡散され、社内だけでなく取引先にも知られ、長年築き上げた会社の信用を一夜にして失います。うつ自殺ともなれば、社長のあなたは長期間にわたって遺族と向き合わねばなりません。


02 厚労省「4つのケア」の実行


職場のメンタルヘルス対策を進めるために、厚生労働省が「4つのケア」を定めました。

研修等で継続的かつ計画的に実施するよう求めています。

ちなみに「4つのケア」とは、社員本人が行うケア、上司が行うケア、産業医が行うケア、外部の専門機関が行うケア、の4つのことです。

   ・社員本人が行うケア

社員本人がストレスやメンタルヘルスについて理解し、まずは自分の力でストレスを防いだり減らしたりする。

   ・上司が行うケア

管理職が、自分の部署のメンタルヘルスについての意識を高めることや、部下からの相談対応などを行う。

   ・産業医が行うケア

産業医や保健師が、職場のメンタルヘルス対策の具体的なアドバイスをすると共に、社員本人や管理職を直接サポートする。

   ・外部の専門機関が行うケア

社外のメンタルヘルス対策専門の団体によるサポートを活用する。


そして、この「4つのケア」についての社内研修や勉強会、あなたの会社では既に実施済みだと思いますが、社員全員が健康で業務に集中できていますか?

もっといえば、研修や勉強会の前と後で、業務への集中力が変わりましたか?
メンタル不調者への対応について、例えば、妻であるあなたが、家族の中で一番の稼ぎ頭である大企業の中間管理職である夫が仕事のトラブルからメンタル不調になった場合と、あなたの子供が中学校でいじめられてメンタル不調になった場合とで、妻として夫や子供にそれぞれ掛ける言葉や接する態度は、全く同じ内容なのでしょうか。

夫であるあなたは、妻が自分へかける言葉と、妻が我が子へかける言葉、全く同じ内容を望みますか?

メンタルヘルス対策のために社内研修をする場合、研修を受ける社員への意識付けの内容は、役員、中間管理職、一般社員それぞれ異なります。

役員には経営上のコンプライアンスを意識させる必要があります。

中間管理職には現場責任者として部下への対応方法を理解させる必要があります。

そして一般社員には、健康維持も会社に労働力を提供するための義務であることを理解させる必要があります。

これらの意識付けの内容を区別せずに、「4つのケア」についての概論を学ぶ内容で全社員に一律に研修をしても、自分の問題として受け止めないため全く効果がありません。

自分がメンタル不調者になった場合にはどうすればいいのか、ならないようにするにはどうすればいいのか、同僚だったら、部下だったら、など、会社内の立場の違いに応じた、すべきこと、してはいけないこと、それぞれの内容を区別して研修すべきなのです。
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